(前回の続き)
鶯谷北口ラブホテル街は思いのほか人通りがある。行き交うスーツ姿の男たちは言問通り沿いのオフィスビルで働く会社員だろう。一様に足早だ。
すれ違いざまに幸子の顔をチラと見るが、彼女はまったく動じない。
アルファベット3文字のとあるホテル。3時間の休憩で3,800円とある。大学生風の男女が先を越すように入っていった。
「入られちゃいましたね、うふふ。でも良かったです。ここ、お風呂がタイル張りで水回り汚いから別のところいきましょう」
幸子はそう言って笑った。あまりに慣れた彼女の口調に、ぼくはただただ苦笑い。
ホテルに入るタイミングを失ったまま、ぼくらは言問通りまできてしまった。信号を渡り、根岸2丁目のホテル街に入る。
鶯谷のラブホテル群は、駅周辺に密集するエリアだけではなく言問い通りを越えた閑静な住宅街にもぽつぽつと点在する。こちらは駅前とくらべてさすがに人の通りが少ない。なるべく安いホテルをと歩きまわったあげくに決められず、もと来た道をUターンして1丁目に戻ってきた。
人妻の奔放なアルバイト
「あ、ここにします? わたし、デリのとき、たいていこのホテル使ってるんです」
ふいに彼女が言った。
男「えっ、デリって……」
女「うん、でも時間外なのでゆっくりできますよ」
幸子はデリヘル嬢だったのだ。
出会い系サイトで援デリ業者の派遣する風俗嬢に当たるのは残念ながらハズレである。彼女は業者の派遣ではなさそうだったが、プロであることに変わりはない。
部屋に入った彼女は手際良くぼくの上着を脱がせてハンガーにかける。
「(デリのこと)黙ってようと思ったんですけどね、見ます?」
スマートフォンを取り出して幸子の在籍している人妻デリヘル店のホームページを開いた。
「これがお店。で、わたしはこれ。ボカしてあるからわからないかもですね」
スタジオで撮ったようなどこかよそよそしい美人風の宣材写真だった。
「ここは結構修正がすごいから。見てもわからないですよね。ほとんど修正です。女の子と待機場所で会うじゃないですか。わからない。名前言われても、え、あの写真? ええっ!? って。ウフフ。この子とかかわいいじゃないですか。スリムだし、胸大きい。でも実物見たら、わたしでも騙されたって思う。始めてのお客さんですり替えられたって怒る人いますよ。常連さんは慣れてるから余裕みたい」
たしかに彼女と見比べてみても別人だ。バービー人形にポーズを取らせているような、無機質な印象を受けた。
「幸子さん、そのままのほうが絶対いい気がします。なんかこれ綺麗過ぎる」
「あはは。ですよね。ちょっとこれはねえ……画像の修正し過ぎで私じゃないですよね。じゃあこれはどう?」
見せられたのは別のお店の写真だった。
胸にフリルのついた白の清楚なシャツに黒のタイトなミニスカートという装い。両足をきちんと揃えてこちらにややぎこちなく微笑みかけていた。
2枚目の写真では、幸子はあどけない表情を浮かべていた。
控えめに開いた股の奥底の、鮮烈な濃いピンク色の三角地帯に釘付けになる。
少しうえのほうから覗いているので、彼女の胸の谷間がくっきりと見えてしまっている。小ぶりだがむっちりと盛り上がった丸すぎるほど丸い乳房は、白い風船のように膨らみ、谷間にブラジャーのホックを喰い込ませ、見るものを誘っていた。
「ごめんなさい、最初にいただいてもいいですか?」
そうだった、フェラのみ6,000円だったなと思い出し財布の中身を広げると細かいお札が足りないことに気づいた。しようがないので彼女に1万円札を手渡した。
女「わたしもいま細かいのないんです、どうしましょうか、両替してきますか?」
男「いえ、これでいいです。幸子さんきれいだし」
女「じゃあできるだけサービスしますね」
彼女は嬉しそうにお金を財布に仕舞った。
あまり恥ずかしがる様子はなかったので少しずつ服を脱がしていった。
肩のストラップを滑らせ、カップを浮かした。幸子はされるにまかせている。
ピンと張り詰めたもち肌の突端に、あざやかなピンク色をした可愛らしい乳首が載っかっていた。
幸子の乳房をまじまじと眺める。さすがにこれは恥ずかしかったようで、身をよじって避けようとした。そんな幸子の乳房をさらに追い詰めて、乳首を口に含んだ。
乳首を口のなかでなぶると、桃色の乳輪が膨らみを増した。
下腹部に手を伸ばしてもみたが、彼女はそっとぼくの手を握りそれ以上進ませないようにして言った。
「始めますね」
無数の竿で培ったテクニック
彼女はぼくをソファに浅く座らせると片ひざを立てたポーズで床にしゃがみ込み、目前で大胆にも太腿を開いた。スカートの奥の薄い水色の下着が視界に飛び込んできた。
そのまま慣れた手つきでズボンのチャックを下げ、硬くなりはじめたモノに手を添えて頬ずりしたあと、ゆっくりと口に含んだ。
「洗っていないけどいいの?」と聞くと、小さく頷(うなづ)く。
そういえばさっきの、彼女が在籍する人妻デリヘルのホームページにはプレイ内容に即尺の二文字があった。なるほどと納得。
それならと生温かくて柔らかい粘膜がぼくの洗っていないペニスにまとわりつくその感触を楽しんだ。口のなかでカリのまわりをチロチロ擦(さす)り、エラの裏側を丁寧に舐め上げる彼女がぼくのペニスの汚れカスを味わっているところを想像した。
そうしてますます肉棒は硬く尖り、硬度を増した。
しばらくして下半身からしびれるような快感が押し寄せて、ぼくはあっけなく射精した。
「すみません、早くて」
「ええ!? 嬉しいですよ。たまにデリのお客さんで糖尿のひととか虚弱体質の人がいて、半勃ちでなかなかイッてくれないんです。◯◯さん、デリの子に好かれると思います」
彼女は真顔で言う。
「そろそろ2回目、出せますか?」
「いや、ちょっといま敏感になってるからフェラされてもくすぐったいだけかも」
鶯谷発!?
一息ついたところで気になる質問をぶつけてみた。
男「出会い系サイトはよく使う?」
女「うーん、たまにですかね。平日で本数少ないとたまに」
男「じゃあ今日は?」
女「土曜だからそれなりかな(笑)。今日はやめておこうかと思ったんですけどね。◯◯さんの返信丁寧だったし」
男「ああ、なるほど。でさ、人妻ってほんと?」
女「わたしは本当。でも人妻じゃない子、結構いますよ」
男「そういえば幸子さんって、どこに住んでるの?」
女「ええっ、言うんですか?」
男「差し支えない範囲で」
女「えっとわたし埼玉なんですよね」
男「なんでこんな遠くまで? 西川口とかあるでしょ」
女「よく知ってますね。でも地元だから、バレるの怖いじゃないですか。それに鶯谷なら京浜東北線で一本だから楽なんですよね」
男「バレなきゃ西川口でやってた?」
女「ですかね」
男「でも西川口って”西川口流”でしょ」
女「そう、そう」
男「本番ありの……」
女「はい、そうみたいですね」
男「そいういうのに抵抗ない?」
女「ないかなあ。いまも(本番)ありだし」
男「えっ、そうなの!?」
女「うん。でもわたし、ゴムは着けますよ。着けない子も多いですけど。鶯谷のデリヘルってたいてい本番ありなんじゃないですか。鶯谷発とかって書いてあるところはそうですよ。(ホームページを開いて)そう、これこれ。これ(鶯谷発)って本番するって意味なんです」
男「仕事で本番するのに、出会い系サイトだとなんでフェラだけなの?」
女「仕事してるから、アソコが擦れて痛いんです。仕事以外で正直あんまりしたくない。夫とも(セックス)していないです。鶯谷発って本番ありで時間内無制限なんですよ。たまにゴムつけると萎えるって言う人とか、若い人でものすごい力でめちゃくちゃについてくる人とかいて疲れる。あとさっきの客はずーっと半立ちで挿れるタイミングがわからなくて疲れましたね。ちんこの根元をぎゅーって締めて無理やり。そういうのにあたると、本番マジ無理って思う」
彼女はぼくのペニスを思い出したように掴むと、シュッ、シュッと上下に数回しごいた。
ちなみに西川口流(NK流)といわれた裏風俗は05年の大規模摘発で壊滅状態に追い込まれた。当時200店ほどあった西川口のフーゾク店(そのほとんどが本番あり)が、今では見る影もない。
男「そういえば幸子さんはデリヘルだけ?」
女「掛け持ちですかね。いくつか。ホテヘルとか」
男「ホテヘルとデリヘルって何が違うの? 内容? ホテヘルも本番ありですよね」
女「デリヘルってホテルも行くけど、客の家にも行くんです。ホテヘルはホテルだけ。やってることは同じですよ。新風営法以降にできたお店はデリヘルって呼ばれてるかなあ」
色々話しているうちにぼくらは次第に打ち解けていった。
(後編へ続く)
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